ドイツの大学では生命科学の食品工学というところに所属している。研究で雇われているから教育のデューティはほとんどないのだけど、時々手伝ったり相談されたりする。うちの講座は力学、応用力学、電磁気、流体力学レオロジーの授業を主に担当している。他の講座が何を教えているのか把握していないが、熱力学は他がやっているだろう。食品工学の学生はこういった科目も勉強するみたいだ。教え方や教えている内容の選び方に多少違いがあるのかもしれないが、物理学科でなくても物理を勉強するんだなと素朴に感じている。でも物理学科の中心である量子力学はさすがに教えない。量子力学、それは私にとっては一番重要だった。学生時代に量子力学に費やした時間は他の科目と比べ物にならない。でも逆に言えば、それに夢中になりすぎて他を疎かにした。存在感がありすぎるというのも困り者だ。いつからか忘れたけど、もっと身近な所にも面白い物理があるに違いないという考え方を持つようになった。おそらく寺田寅彦の文章の影響かな。だからコロイドという研究テーマのポスドクの話があった時に飛びついた。量子力学とは無関係の所で何か面白い物理ができるかもしれない。いい加減な動機だけど、こうやってテーマを変えて研究する機会があったのは運がよかった。そして、この分野の事をますます好きになっている。何よりも実験が近い。学部生の頃は、純粋に数式だけから予言され後で実験で見つかった陽電子の話に憧れ、勝手に理論物理は実験よりすごいと思っていた。しかし、実際に対象を測定することで、偏見に支配されないように対象と向き合う事こそが物理の本質だ(量子力学も主観より実験を優先することで完成した)。この分野で研究を始めてから意識するようになったけど、たくさんの研究者たちが日々工夫を積み重ねて、今まで見る事ができなかった所に光を当てている。それらのほとんどが応用を目的とした研究で、個々にモチベーションがバラバラだったりするけど、いつかそれらを基礎物理学へ還元するような仕事ができないかなんて事を考えている。